【業務紹介】信用調査業務って何?【初心者向け】
◆ この記事を読んでほしい人
・法務部門にどんな業務があるか知りたい人
・信用調査業務/与信調査業務の目的を知りたい人
・信用調査会社からレポートを買っているだけの人
◆ この記事を読むとわかること
★ 法務部門が行っている「信用調査業務」のざっくりとした目的と内容
★ 信用調査の初心者が、意識すると良いこと。
◆ 信用調査/与信調査とは
※「信用調査」と「与信調査」、企業の法務部門では、どちらもほぼ意味で使われますので、以下では、「信用調査」に統一します。
さて、信用調査とは、「信用」を調査するわけですが、
ここでの「信用」とは、何でしょうか?
具体的に何を、どのように調査するのでしょうか?
信用調査とは… ざっくり言うと
● 誰かと契約を結ぶ(取引きを行う)に当たって、契約して大丈夫な相手かどうかを調べるということです。
● 調査する事項は、契約する内容により異なります。
つまり、「信用」とは、「契約して大丈夫か」ということです。
◆ 信用調査を行う例
ここでは、契約において、信用調査を行う2つの例を挙げて、それぞれの信用調査の目的と内容を見てみます。
(例1)業務委託契約を締結しようとする場合
何らかの仕事を委託するときは、その委託先が仕事をしっかり履行してくれる会社でないと困ります。したがって、信用調査の目的と内容は、
【目的】 委託した仕事をしっかり履行してくれそうな会社か調べる
【内容】
⑴ そもそも、この仕事を行う資格があるか
⑵ 過去に問題を起こしていないか
⑶ 資金繰りは大丈夫か(途中で倒産しないか)
⑷ その他
では、これらのことを、どのように確認するかというと、
●⑴、⑵は、監督官庁のHPなどから、許認可の資格を確認したり、行政処分を受けていないか確認できます。
●⑶は、財務諸表から分析・検討を行います。
なお、相手の会社が非上場である場合などには、財務諸表が公表されていない場合があるので、契約(又は事前に)により、提出をさせる場合もあります。
その他、契約担当者からのヒアリングなども参考にします。
(例2)信用取引を行う場合
※信用取引とは、商品・サービスを先に相手に引渡し、後から代金を回収する契約のことです。後から代金が支払われるので「後払取引」という場合もあります。
この契約では、先に商品・サービスを相手に提供してしまいますので、後から対価・代金をしっかり払ってもらえなければ困ります。したがって、信用調査の目的と内容は、
【目的】対価・代金をしっかり払ってくれそうな会社か。
【内容】
⑴ 資金繰りは問題ないか?
⑵ そもそも実在する会社か?
⑶ その他
では、これらのことを、どのように確認しているかというと、
●⑴は、財務諸表から分析・検討を行います。財務諸表に記載された様々な数値から、資金繰りなどを推定する指標(「どのくらい現金を持っているか」など。具体的なものはここでは省略します)を計算し、確認します。
●⑵については、相手の会社の商業登記簿や本店等の不動産登記簿などを確認します。
⇒商業登記簿では、規模や事業内容が、今契約しようとしている内容と金額の規模と比較して不自然でないかなどを確認します。
⇒不動産登記簿では、本店等の不動産がその会社の所有であるか、また、所有である場合にはどの程度の抵当が付いているかなどに注目します(財務諸表の負債との比較など)。
以上、2つの契約での信用調査の例を書いてみました。
◆ 信用調査会社の利用
以上において、ざっくりとですが、信用調査で何を調査しているか、述べてきましたが、読んでいただいたとおり、調査の内容は、非常に漠然としています。
そして、以下のように、自前で信用調査を行おうとすると、非常に問題・課題の多い業務なのです。
● 資料を手配し、確認・分析するのは、非常に骨が折れる
● 資料を読めても、審査の判断基準がわからない
● 業界内の他社のとの比較ができない
● 担当者同士では、相手から得られる資料が乏しい
● 法務担当者が財務諸表をほとんど読めない
(余談ですが、財務諸表は、法務部門や経理部門でなくても、読めるようになるべきでしょう。)
そこで、実務上は、信用調査会社の「調査報告書(調査レポート)」というものを利用することが多いです。
「調査報告書」とは、(別途記事にしますが、)簡単に言うと、先に述べたような調査を、信用調査会社が行い、見解をまとめた書類です。なお、料金は調査1社につき、1万円から3万円程度。
しかも、調査報告書は、相手の会社の役員・責任者からのヒアリング内容や、業界での位置づけ、業界全体の動向が記載されているなど、充実した内容になっていますので、大いに利用すべきでしょう。
「だったら、全部、調査報告書に任せればいいじゃん」と思うかもしれませんが、上に述べた信用調査の基本的な目的を知らずに、調査報告書を利用すると、この仕事が、「調査報告書を買ってくるだけの仕事」になってしまいます。
自分の仕事を価値ある営みにするためにも、基本は知っておきましょう。
法務相談業務に必要な資質とは?
今回は、法務部門の主要な業務の一つである、社内の事業部門からの法務相談業務について、基本的な心構えを書いていきます。
◆ この記事を読んでほしい人
◆ 法務担当者って、どんな人?
いきなりですが、法務部門の社員というと、以下のようなイメージがないでしょうか?
● 理路整然と話ができて、理屈で負けない人
● ルールや「べき論」で事業部門を従わせる人
● なんでも白黒付けられる頭脳明晰な人
たしかに、私も法務部門に来る前までは、まさにこのようなイメージでした。
でも、私も6年以上やっていますが、実際には、このような人は見たことありません。
もちろん、要素として「理路整然と話せること」などはメリットだと思います。しかし、これらは必須な資質ではありません。
先に結論ですが、本当に必要な資質は、(ありふれたものですが)やはり、これです。
◆ 法務部門は、どうあるべきか?
想像してみて下さい。
もし、自分の担当する事業について、法務部門に訊きたいことがあっても、法務担当者が”取っつきにくい人”や”偉そうな人”だったら、どうなるでしょう?相談しに行き難いですよね?
そうなると、その会社の法令遵守やコンプライアンスどうなってしまうでしょうか?
また、訴えられて裁判になったときに、最後まで協力してしっかり戦うことができるでしょうか?
ということは、法務部門が、法律面で会社を良い方向に導き、支えていていくためには、法務担当者は、
- 敷居を低くし、社内の誰からも相談される
- 法務担当者の言葉を信じてもらえる
- 時には、法務担当者の言葉や存在そのものに、権威を感じていただく
そんな存在として、会社の中で機能しならなければならないのです。
そのために、事業部門との信頼関係の構築が重要であり、コミュニケーションはその手段になってくるのです。
◆ 法務部門でのコミュニケーションとは?
「法務担当者に必要な資質は『コミュニケーション上手で、信頼関係を…』」と述べましたが、こう言うと「自分はコミュ障だから、無理」と尻込みしてしまう人もいるかもしれません。
安心してください。たとえ「コミュ障」だろうが、心配は不要です!
法務部門でのコミュニケーション、特に法務相談業務で求められているコミュニケーションとは、プライベートで求められているそれとは、異なるのです。
どういうことかというと、法務相談においては、信頼関係の面から社内の事業部門と課題をリアルに共有することが大切(←後段で詳しく述べます)であり、コミュニケーションはそのための手段なのです。
しかし、法務相談において、そもそも課題を持って来るのは、事業部門の側です。法務担当者は、情報をもらって、頭の中に描くことで課題を共有できるのです。
つまり、相手と気の利いた会話をするのではなく、自分の頭の中に、相手(事業部門)と同じイメージを作り上げるために必要なことを質問をする、というのが法務相談におけるコミュニケーションなのです。
この意味では、相手のためにコミュニケーションではなく、自分のためのコミュニケーションという捉え方もできます。
このように「自分のための」と捉えれば、「コミュ障」なんて関係ないですね!
余談ですが、私も、プライベートでは、無関心で、人付き合いは悪く、決して、コミュニケーションが上手とは言えません。会話において、沈黙があっても何の違和感を感じないほどの人間です。
しかし、そんな私であっても、仕事においては、事業部門の社員に質問しまくります。これが功を奏し、ほぼ同じ経験年数の同僚や先輩が、何人もいる中で、社内の各事業部門からの法務相談では、常に指名ランキング1位で、多くの社員から信頼されています。
◆ 法務相談における法務担当者に対する期待と役割
法務相談にやってくる他部署の社員は、法務担当者である私に、面白い話を期待しているのではありません。楽しい会話が続くことを期待しているわけでもありません。
では、事業部門は、何を期待して、法務担当者に相談しに来ているのか?
答えは、事業を進めるうえでの心配事の解消です。
もちろん「解決策の内容」も大切ですが、実は、これは真の目的ではないのです。
このことは、解決策を提示する場面をイメージするとわかりやすいと思います。
事業部門の社員が、真剣に相談しに来たのに、法務担当者が、半分だけ話を聞いて、解決策を提示してきたら、事業部門の社員はどのように感じるでしょうか?
おそらく、
「違う状況をイメージしてアドバイスしているのではないか」
「今の事業の状況で適用できるのか」
「理想論、絵に描いた餅ではないか」
などと、相談後にも疑問や心配を残すことでしょう。あるいは、解決策を実行してくれないかもしれません。
●これで、コンプライアンス経営を進められるでしょうか?
●こんな状況では、法務相談が機能しているとは言えないですよね?
つまり、
◆ 「相談」とは、相談する側と、相談される側の双方で、
「課題が共有できているという認識」がなければ機能しない。
◆ 相談する側が「伝わっていない」と感じると、かえって不安を感じる。
ということになります。
「話半分で」とは極端な例ですが、事業部門が何らかの違和感を感じているにもかかわらず、相談をどんどん先に進めてしまうと、結局は、同じことです。
★ 人は、相手に対して、自分のことを理解してくれていると感じたときに、その相手の言動を信頼し、行動しやすくなります。影響力は、信頼を基礎とします。
★ そして、法務部門は、提案した解決策を、事業部門に「実行」してもらってこそ、役割を果たせるのです。
法務担当者ならば、課題の共有を疎かにしておきながら「法務の言うことを聞かない事業部門が悪い」などと考えてはいけません!
したがって、
◆ まとめ
法務相談においては、事業部門の社員との間で「課題が共有できているという認識」を形成することが、解決策の提示に先立って重要ということです。
法務相談は、法律を「知らない人」が「知っている人」に訊きに来る場面ですので、つい、法務担当者は、知った気になって、あるいは、得意げに対応しがちです。
加えて、誰しも、わからないことを聞くと、自分の知ってる枠組みに押し込みがちです。
しかし、会社における法務担当者として、事業部門の社員の不安を解消し、その事業を自信をもって進めてもらうためにも、一切のバイアスを排除し、意識的に事業部門の話を聞き出すようにしましょう。
そうすることで「よく聞いてくれる法務担当者」「よく理解してくれる法務担当者」として、事業部門からの信頼は厚いものとなり、
● 事業部門は、安心、信頼して、提案した解決策を実行します。
● どんどん法務相談しに来てくれるようになります。
このような好循環を生むことが、相談業務において、法務担当者が「目指すところ」と言えます。
法務部門はどんな仕事してる?
前回の記事で、企業の法務部門では、周辺領域も含め様々な業務を担当していることを、紹介しましたが、今回は、それらを紹介します。
それぞれの細かい内容やイメージついては、後日、記事にしていきますが、まずは、ざっくりとカテゴライズします。
・契約書の作成/添削/確認
・各事業部門からの相談対応/弁護士相談
・訴訟対応
・株主総会/IR
・債権回収/信用調査/契約審査
・コンプライアンス研修企画
・契約交渉実務
・登記関係(商業・不動産)事務
・業法(規制法)/所轄官庁対応
・危機管理/暴追
・社内規程管理/文書管理
・官公署等への各種届出
・事故対応/保険会社対応
・警察等の照会対応
多すぎっ!と感じたでしょうか?
安心してください。法務部門で全てを担当している会社は、ほぼ無いと思います。
私が、これまでの経験のなかで他企業の法務担当者から聞いた話からすると、企業の規模にもよりますが、これら業務のうち、概ね5~10の業務を担当していることが多いです。
残りの業務は、総務、経理、知財など別の部署が担当することになります。
また、見ていただいてわかるかと思いますが、総務業務との線引きが曖昧ですので、総務部門との兼務という形を採っている会社も多いようです。
私の勤める会社でも、審査は経理部門で行い、また独立した知財部門もあるため、法務部門では、これらの半分程度を担当しています。
しかし、これから法務部門を目指す方に知って欲しいことがあります。それは、傾向として、
・小さい企業ほど、薄く広く多くの業務を担当する
・大きい企業ほど、専門・特化した業務担当する
ということです。
そして、この傾向も踏まえて、
◆ 自社の法務部門がどのような構造になっているのか。
◆ 自分はどのような働き方をしたいのか。
◆ 自分は、どのような働き方(広く薄く?専門特化?)を楽しいを思うか。
考えてみるとミスマッチも防ぎ、楽しく働けると思います。
【未経験者向け】法務部門でのミスマッチを防ぐには?
◆ この記事を読んでほしい人
・法務部門の仕事に一応のイメージを持っている人
法務部門を希望する人にミスマッチの話をするのは、申し訳ないのですが、現実には、希望が叶って法務部門に異動になっても、イメージと全然違う仕事でミスマッチに戸惑う若手社員は一定の割合でいます。
なお、私自身も、法務部門に在籍し6年以上経過しますが、やりがいや成長を感じられる仕事もあれば、ストレスしかなく転職を検討するほどつまらない仕事もありました。実際に退職してしまった人もいます。
なぜ、それほどのミスマッチが起こるのでしょうか?
答えは、法務部門の守備範囲の広さにあると考えています。
◆ 法務部門は様々な業務担当している
実は、法務部門と言っても、周辺領域がとても広く「これが本当に法務?」って思うほどの業務まで担当することも多いのです。
例えば、以下のような業務を法務部門で行う会社もあります。
◆会社の資産に対する毀損事故の対応
◆危機管理対応や不祥事の処理
なぜ、周辺領域が広いかと言えば、会社には「誰に何の仕事を与えるか」という指揮命令権があり、会社がその規模に応じて、何となく雰囲気の近い仕事をまとめて「これが法務だ」と決めるので、法務部門に様々な仕事があるのです。
また、逆に、「本来、法務がやるべきでは?」という業務を別の部署で行っていることもあります。
例えば、以下のような業務を法務部門で行わない会社もあります。
◆契約書の審査業務 ⇒ 経理部門で行う
◆知的財産 ⇒ 独立した知的財産の部署がある
◆自社に関係する業法 ⇒ 業法だけの専門部署がある
◆人事労務の紛争 ⇒ 人事部門で対応する。
業界や企業の事情・戦略により一部を独立した部署にしている場合があります。例えば、技術系の会社で、知的財産部門が独立している場合が多いです。
このように、法務部門の業務の範囲と内容は、会社ごとに実に様々です。
そのため、事前のイメージと実際の業務との間で、時にミスマッチが発生するのです。
なお、小さい会社ほど、多くの周辺領域まで担当し、大きい会社ほど分業化される傾向があります。法務部門への異動・転職を考えるときの目安になります。
周辺領域も含めて業務の範囲や具体的な内容は、追って記事にします。
◆ ミスマッチを防ぐには
このような実態がありますので、法務部門への異動を検討・希望する場合には、
◆ 自社の法務部門が、どのような業務を担当しているのか、よく調べておく
◆ 自分は具体的にどんな仕事がしたいのか、よく考えておく
ということうを事前に行っておけば、異動後のミスマッチを減らすことができると思います。
★法務部門に興味がある人は、これらを意識しておくことをオススメします。
企業法務 超初心者向けのブログ
このブログは、主にこれから企業法務を目指す人に向けて
- 非法学部卒、理系出身
- 未経験から企業法務へ
- 経験6年以上の現役企業法務社員
である私が、その経験をもとに、
- 企業法務とはどのような仕事か?
- 法学部ではないけど大丈夫?
- 求められる能力とは?
- 企業法務のやりがいとは?
- 初心者向けのお役立ち情報
といった、シンプルな疑問や心配事について書いていきます。
具体的な法律の条文や解釈は書きませんので、全くの初心者でも安心して読めると思います。
あくまでも、仕事としての企業法務についてのブログです。