法務相談業務に必要な資質とは?
今回は、法務部門の主要な業務の一つである、社内の事業部門からの法務相談業務について、基本的な心構えを書いていきます。
◆ この記事を読んでほしい人
◆ 法務担当者って、どんな人?
いきなりですが、法務部門の社員というと、以下のようなイメージがないでしょうか?
● 理路整然と話ができて、理屈で負けない人
● ルールや「べき論」で事業部門を従わせる人
● なんでも白黒付けられる頭脳明晰な人
たしかに、私も法務部門に来る前までは、まさにこのようなイメージでした。
でも、私も6年以上やっていますが、実際には、このような人は見たことありません。
もちろん、要素として「理路整然と話せること」などはメリットだと思います。しかし、これらは必須な資質ではありません。
先に結論ですが、本当に必要な資質は、(ありふれたものですが)やはり、これです。
◆ 法務部門は、どうあるべきか?
想像してみて下さい。
もし、自分の担当する事業について、法務部門に訊きたいことがあっても、法務担当者が”取っつきにくい人”や”偉そうな人”だったら、どうなるでしょう?相談しに行き難いですよね?
そうなると、その会社の法令遵守やコンプライアンスどうなってしまうでしょうか?
また、訴えられて裁判になったときに、最後まで協力してしっかり戦うことができるでしょうか?
ということは、法務部門が、法律面で会社を良い方向に導き、支えていていくためには、法務担当者は、
- 敷居を低くし、社内の誰からも相談される
- 法務担当者の言葉を信じてもらえる
- 時には、法務担当者の言葉や存在そのものに、権威を感じていただく
そんな存在として、会社の中で機能しならなければならないのです。
そのために、事業部門との信頼関係の構築が重要であり、コミュニケーションはその手段になってくるのです。
◆ 法務部門でのコミュニケーションとは?
「法務担当者に必要な資質は『コミュニケーション上手で、信頼関係を…』」と述べましたが、こう言うと「自分はコミュ障だから、無理」と尻込みしてしまう人もいるかもしれません。
安心してください。たとえ「コミュ障」だろうが、心配は不要です!
法務部門でのコミュニケーション、特に法務相談業務で求められているコミュニケーションとは、プライベートで求められているそれとは、異なるのです。
どういうことかというと、法務相談においては、信頼関係の面から社内の事業部門と課題をリアルに共有することが大切(←後段で詳しく述べます)であり、コミュニケーションはそのための手段なのです。
しかし、法務相談において、そもそも課題を持って来るのは、事業部門の側です。法務担当者は、情報をもらって、頭の中に描くことで課題を共有できるのです。
つまり、相手と気の利いた会話をするのではなく、自分の頭の中に、相手(事業部門)と同じイメージを作り上げるために必要なことを質問をする、というのが法務相談におけるコミュニケーションなのです。
この意味では、相手のためにコミュニケーションではなく、自分のためのコミュニケーションという捉え方もできます。
このように「自分のための」と捉えれば、「コミュ障」なんて関係ないですね!
余談ですが、私も、プライベートでは、無関心で、人付き合いは悪く、決して、コミュニケーションが上手とは言えません。会話において、沈黙があっても何の違和感を感じないほどの人間です。
しかし、そんな私であっても、仕事においては、事業部門の社員に質問しまくります。これが功を奏し、ほぼ同じ経験年数の同僚や先輩が、何人もいる中で、社内の各事業部門からの法務相談では、常に指名ランキング1位で、多くの社員から信頼されています。
◆ 法務相談における法務担当者に対する期待と役割
法務相談にやってくる他部署の社員は、法務担当者である私に、面白い話を期待しているのではありません。楽しい会話が続くことを期待しているわけでもありません。
では、事業部門は、何を期待して、法務担当者に相談しに来ているのか?
答えは、事業を進めるうえでの心配事の解消です。
もちろん「解決策の内容」も大切ですが、実は、これは真の目的ではないのです。
このことは、解決策を提示する場面をイメージするとわかりやすいと思います。
事業部門の社員が、真剣に相談しに来たのに、法務担当者が、半分だけ話を聞いて、解決策を提示してきたら、事業部門の社員はどのように感じるでしょうか?
おそらく、
「違う状況をイメージしてアドバイスしているのではないか」
「今の事業の状況で適用できるのか」
「理想論、絵に描いた餅ではないか」
などと、相談後にも疑問や心配を残すことでしょう。あるいは、解決策を実行してくれないかもしれません。
●これで、コンプライアンス経営を進められるでしょうか?
●こんな状況では、法務相談が機能しているとは言えないですよね?
つまり、
◆ 「相談」とは、相談する側と、相談される側の双方で、
「課題が共有できているという認識」がなければ機能しない。
◆ 相談する側が「伝わっていない」と感じると、かえって不安を感じる。
ということになります。
「話半分で」とは極端な例ですが、事業部門が何らかの違和感を感じているにもかかわらず、相談をどんどん先に進めてしまうと、結局は、同じことです。
★ 人は、相手に対して、自分のことを理解してくれていると感じたときに、その相手の言動を信頼し、行動しやすくなります。影響力は、信頼を基礎とします。
★ そして、法務部門は、提案した解決策を、事業部門に「実行」してもらってこそ、役割を果たせるのです。
法務担当者ならば、課題の共有を疎かにしておきながら「法務の言うことを聞かない事業部門が悪い」などと考えてはいけません!
したがって、
◆ まとめ
法務相談においては、事業部門の社員との間で「課題が共有できているという認識」を形成することが、解決策の提示に先立って重要ということです。
法務相談は、法律を「知らない人」が「知っている人」に訊きに来る場面ですので、つい、法務担当者は、知った気になって、あるいは、得意げに対応しがちです。
加えて、誰しも、わからないことを聞くと、自分の知ってる枠組みに押し込みがちです。
しかし、会社における法務担当者として、事業部門の社員の不安を解消し、その事業を自信をもって進めてもらうためにも、一切のバイアスを排除し、意識的に事業部門の話を聞き出すようにしましょう。
そうすることで「よく聞いてくれる法務担当者」「よく理解してくれる法務担当者」として、事業部門からの信頼は厚いものとなり、
● 事業部門は、安心、信頼して、提案した解決策を実行します。
● どんどん法務相談しに来てくれるようになります。
このような好循環を生むことが、相談業務において、法務担当者が「目指すところ」と言えます。